オフィスをラボに転換するための7つのヒント
近年大都市を中心に、オフィスビルの中に研究室や細胞培養加工施設(CPC施設)を設ける事例が増えています。このようなオフィスビル内に構築されるラボは「本社機能と研究開発部門を近接で配置できる」「通勤に便利」「人材が集まりやすい」といった都市部立地のメリットに加えて、「完全新築の研究所よりコストを抑えられる」「移転が容易」等のオフィステナントならではのメリットがあり、ORIENTALでも多くのお客様からオフィスビル内へラボを構築したいという依頼を頂いています。
新型コロナウイルスのパンデミックは、このトレンドに拍車をかけているように思われます。外出機会の減少やテレワークの普及により複合ビルの商業・オフィス機能への需要が減退傾向にある一方で、ライフサイエンスへの注目は一層高まっていることが背景にあります。
米国の事例として、Bloomberg社が2020年9月にラボスペースの需要の高まりを特集した記事を発表しており、「数十億ドル規模の機関投資」が、ライフサイエンスラボを提供する方法や場所を大きく変化させている兆しが見えると指摘しています。
こうした高い需要とは対照的に、多くのオフィスビル・複合ビルでは、その中に「ラボを構築する」ということを前提としていません。そのためラボに必要な施設要件をそのままでは満たせず、十分な機能を有さないラボが完成してしまったという事例もあります。
このコラムでは、オフィステナントをラボに改修するための7つのポイントをまとめました。
1. インフラの必要条件を満たす
ラボの構築では、十分な電源・給排水・給排気設備が欠かせません。一般的なオフィステナントにも冷暖房設備と電源供給、給排水設備は設置されていますが、研究開発の用途に対しては供給量が小さく、配線・配管にも制約を受ける場合があります。
電源設備
研究室に要求される電源供給量は、一般的なオフィスに比べて多くなる場合がほとんどです。テナント側が供給可能な電気容量を理解した上で設置予定のラボの電気容量と比較し、増設の有無を検討する必要があります。また、配線方法の把握も重要です。ユーティリティ供給方式には床下からの立上り方式や天井からの立下り方式などがありますが、ビル内ユーティリティの構造から最適なラボのレイアウトと供給方式を決定する必要があります。
給排水設備
整備の上で重要になるのは実験排水の設備です。通常のオフィスビル排水システムで、使用する薬品が含まれた排水を処理して問題がないかを事前に確認する必要があります。水質汚濁防止法など法規面での確認に加えて、排水して問題がないかビルのオーナー・デベロッパー側による判断も必要です。実験排水処理に対応していないビルの場合、廃液がそのまま排水されないように運用を工夫する必要があります。
給排気設備
オフィスビルの給排気システムは、大抵の場合冷暖房と換気にしか対応していません。しかしラボでは大きく「ヒュームフード(ドラフトチャンバー)設置」と「室圧制御」の2点で、専用の給排気設備を新たに設ける必要が生じる場合があります。
ヒュームフードをラボに設置する場合、フード上部から屋外への排気系統に加えてラボ内への給気系統の整備が必要です。(「3. ビル屋上に十分な空調システムが設置できる」参照)
室圧制御は、部屋同士に差圧を設けることで有害物質の拡散防止や室内空間の清浄度管理を行う仕組みです。クリーンルームやバイオハザードルームを構築する際には、一般実験室や前室との間で差圧を作るために給排気設備が必要です。
2. ダクトや配管・配線が適切に設置できる
ラボのダクトや配管、配線をどのように計画するかは重要です。
配管の収納を考慮すると、床から1つ上階の床までの高さ(階高)が5m程度確保できる建物が理想的です。しかし日本国内のオフィスビルでは平均的な階高は3.5m前後で、十分な高さが確保できる事例は極めて少ないです。そのため、事前に入居するラボの要求仕様に合う配管・配線計画を行うことが重要になります。
3. ビル屋上に排気システムが設置できる
ラボで有害物質や排熱の大きい機器を使用する場合は、ヒュームフード・排気ファン・排ガス洗浄装置(スクラバー)といった排気システムを設置する必要があります。
オフィスビルの屋上部には大抵の場合空調装置の室外機が設置されていますが、排気ファンや排ガス洗浄装置の設置が必要な場合は既存の屋上に増設できる余地があるかを確認しなければなりません。
スペース不足や屋上部の補強が困難といった事情でヒュームフードの設置が困難な場合、室内循環方式でダクト・ファンを要さない「ダクトレスヒュームフード」を導入することも可能です。
「ダクトレスヒュームフード」について詳しく見る。
4. 効率的な搬入出動線を計画する
実験に必要な試料・資材の受け取り、製品の出荷、外部へ処理を依頼する廃棄物の搬出...物の出入りが激しいラボには、搬入出の動線計画が欠かせません。
ビルに複数のテナントが入居している場合は、他のテナントとの兼ね合いを考慮しながら動線計画を行う必要があります。
5. 十分な事故・災害対策を計画する
ラボでは火や特殊ガス・有害物質等を使用する場合があるため、火災や地震といった事故・災害の際に大きな被害を引き起こさないように、対策を十分計画する必要があります。
オフィスビル・テナントの耐災害性確認
近年建設されたオフィスビルは各種法規により原則厳しい耐震・耐火基準に適合していますが、ラボとしての運用を考えた上ではこれらの基準で十分とは言い切れません。ラボ運用を想定して入居ビル・テナントを検討される際には、下記「災害対策設備の設置」も考慮した耐災害性の確認が必要です。
災害対策設備の設置
研究室内での火災対策は欠かせません。消防法では延床面積や階数によって火災報知器やスプリンクラーの設置が義務付けられていますが、改修によって間取りが変化した場合でも各部屋の火災対策が十分かを確認する必要があります。
また、地震の頻発する日本では、地震対策も必須です。実験什器の転倒や落下・移動を防ぐために、実験什器をテナント区画の床や壁に固定する必要があります。
停電に備えて、非常用発電機を設置する事例もあります。貴重な検体を扱うフリーザーや実験動物を飼育するラックなどは、停電時でも非常電源で一定時間稼働し続けられるように準備する必要があります。
6. 建物の耐荷重と耐震性が十分である
実験装置には重量のあるものや、振動に敏感なものが数多くあります。そのためラボに要求される耐荷重は、一般的なオフィスを上回る場合がほとんどです。
オフィスビルの耐荷重や耐震性は、実験装置を多用するラボの入居検討で重要な要素となります。配管の自由度が高い二重床(OAフロア)構造を導入する事例もあります。
7. 特殊な実験装置に対応できる
ラボでは真空システム、純水製造装置、液体窒素供給システム等の特殊な実験装置が必要となる場合があります。これらの実験装置を整備するためには給排気システムの拡張、特殊電源、建物の壁や天井への特殊ガス配管設置を要します。
ユーティリティの容量が大きく、テナントエリア内の壁や天井を広く使用できるテナントであるか、または改修により対応可能なテナントかを事前に確認する必要があります。
入居物件選定から移転事業まで
総合的なプロジェクトマネジメントを実施
ORIENTALでは、オフィスビル内にラボを設置するにあたり、給排水・換気・セキュリティ・近隣対策などの諸条件をクリアし、立地的にも利便性の高い物件の調査・選定をサポート。物件の決定後は設計、施工、移設、アフターフォローまで総合的なプロジェクトマネジメントを行います。
豊富な経験と実績を有する研究環境構築のプロフェッショナルだからこそできる、ラボリノベーションへのこだわりとプロジェクト実例をご覧ください。