ドラフトチャンバー(ヒュームフード)とは?安全キャビネットとの違いを解説
研究室の安全性を高めたいと考えている方に向けて、ドラフトチャンバーとはどのようなものかをご紹介します。
ドラフトチャンバーは、化学実験等で発生する有害ガスを屋外に排出するための装置です。しかし、ドラフトチャンバーと役割や形状が似た装置の1つとして安全キャビネットと呼ばれる装置もあり、どのような違いがあり、どちらの装置を導入すべきか迷う方も多いでしょう。
そこで今回の記事では、ドラフトチャンバーの特徴と安全キャビネットとの違いについて解説します。この記事を参考にしていただければ、安全な環境を保つために適切な装置を選びやすくなるでしょう。
ドラフトチャンバーとは?
まず、ドラフトチャンバーは別名、「ヒュームフード」とも呼ばれています。海外では一般的にヒュームフード ・Fume Hood または Fume Cupboard と呼ばれていますが、日本ではドラフトチャンバー(ドラフト・ドラフト装置・ドラチャン)という名称で広く認知されています。しかし、現在では日本国内においても国際的な環境安全教育の観点からヒュームフードと呼ばれることがあります。
そして、装置の役割としては、ガスを排気することが主たる目的となります。『局所排気装置』の一種であり、形状は作業スペースを囲い込むタイプであることが特徴です。有害物質が発生する作業スペースを囲い込み、装置の後方から空気を吸引し続けることにより、作業者への有害物質のばく露を防ぐ仕組みとなっています。人体に有害な物質が適切に処理されずに室内に放出されると、作業員の健康が損なわれる恐れがありますが、それを防ぐために、有害なガスを安全に排出するための装置がドラフトチャンバーなのです。
ドラフトチャンバーと安全キャビネットの違い
どちらも「フード」と呼ばれることもあり、形状も似ていますが、安全キャビネット(バイオハザード対策用キャビネット)とドラフトチャンバーは、まったく異なる機能を持った設備です。
どちらも実験に付随するリスクを封じ込めるように設計されていますが、保護する対象、気流、およびアプリケーションの点で異なります。
ドラフトチャンバーは、庫内で取り扱われる有害ガスを屋外に排気することで作業者と作業環境の保護を目的とする換気設備です。
それに対し主にライフサイエンス分野で使用される安全キャビネットは、HEPAフィルターと指向性気流を利用して、環境、作業者、試料を保護することを目的としています。どちらも、作業者を保護するという点では同じですが、安全キャビネットはバクテリア、ウイルスなどの病原体・細菌等を扱う作業に適しており、作業空間の清浄度を保つという特徴があります。
一方で、屋外排気タイプでない安全キャビネットの場合は、処理した空気を屋外に排気することなく室内に再循環させるため、HEPAフィルターで捕集されない物質(有害ガスや臭気など)は室内にもどってしまうため、注意が必要です。
不適切な封じ込め設備を選定することは、作業者の健康、安全、および実験室(とその排気システム)の操作/機能に重大な影響を及ぼす可能性があることに注意する必要があります。特定のプロセスに基づく推奨事項については、常に安全担当者に確認していただくことを推奨します。
以下で、ドラフトチャンバーと安全キャビネットの主な違いを表でまとめました。
ドラフトチャンバー | 安全キャビネット | |
保護の対象 |
作業者・室内循環 |
環境・作業者・試料 |
気流 |
屋外への排気 |
HEPAフィルターと指向性気流 |
アプリケーション |
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タイプ |
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以上の違いを踏まえ、それぞれの特徴に応じた適切な装置を選ぶことが重要です。なお、『HEPAフィルター』は花粉や粉塵、ウイルスを捕集する能力に優れたフィルターです。
0.3μmの粒子であれば、99.97%以上を捕集できるとされています。非常に細かな粒子を含む空気を効率的に清浄化するためには、欠かせないフィルターです。
保護の対象
適切な換気設備を選択するための最初のステップは保護する対象を理解することです。
ドラフトチャンバー(ヒュームフード)
ドラフトチャンバーは、有害ガスから作業者と室内環境を保護することを目的としています。
安全キャビネット
安全キャビネットは、環境、作業員、および試料を浮遊粒子から保護することを目的としています。
ドラフトチャンバー(ヒュームフード)の使用に際する注意
安全かつ効率的に作業するには、空気の流れが阻害されないことが重要です。大型機器を庫内に設置するなど、空気の流れを阻害するようなことは避けるべきです。どうしても必要な場合は、規定の開口風速が維持できるように設置してください。また、使用時には、決して頭を庫内に入れず、サッシは未使用時には閉じるようしてください。
安全キャビネットの使用に際する注意
室内循環タイプであるクラスⅠやクラスⅡタイプAについては、HEPAフィルターで捕集されない物質(有害ガスや臭気など)は室内にもどってしまうため、注意が必要です。
気流
気流は封じ込め設備の性能を決定付ける最も重要な要素のひとつです。気流の観点におけるドラフトチャンバーと安全キャビネットの違いは以下の通りです。
ドラフトチャンバー(ヒュームフード)
ドラフトチャンバーは作業者が有害ガスに曝露しないように、前面開口部より室内の空気を吸い込みます。空気は開口部を通り、作業面を通過し、装置上部からダクトを通り抜け、屋外に排出されます。
安全キャビネット
安全キャビネットは、3つのクラスに分類されますが、それらすべてに共通の点が1つあります。それは、有害なエアロゾル/微粒子から作業者の安全を確保する点です。
- クラスI安全キャビネットは、前面開口部から空気を吸込み、HEPAフィルターを通過して、実験室に循環排気されるか、屋外に排気されます。
- クラスII安全キャビネットでは、室内の空気を吸い込み、清浄化された空気が作業エリアに吹き出され、HEPAフィルターを通って排気空気は室内に再循環、もしくは屋外に排気されます。
- クラスIII安全キャビネットは、危険な作業を封じ込めるために完全な物理的バリアを利用する設備です。空気は単一のHEPAフィルターを通って入り、屋外に向かう途中でHEPAフィルターを通過して排出されます。
アプリケーション
ドラフトチャンバーと安全キャビネットでは対象とするアプリケーションが異なります。
ドラフトチャンバー
ドラフトチャンバーは、主に下記の物質を用いるアプリケーションに対して使用されます。
- 臭気性物質
- 有害ガス
- 反応性物質
- 飛散する可能性のある化学物質
- 発がん性物質
- 可燃性物質
- その他の有害で揮発性の物質
安全キャビネット
安全キャビネットは、主に感染性微生物または大腸菌等の遺伝子組み換え微生物を用いるアプリケーションに対して使用されます。安全キャビネットのタイプに応じて、BSL(バイオセーフティレベル) 1、2、または3 [P1~P3レベル]の封じ込めレベルが必要となる試料が使用されます。
タイプ
ドラフトチャンバー・安全キャビネットともに様々なタイプがあり、それぞれの特徴を理解し、アプリケーションや設置環境に応じて使い分けることが重要です。
ドラフトチャンバー
定量排気方式のドラフトチャンバーが最も一般的です。エアカーテン式、高封じ込め型(低風量型)なども、すべて定量排気方式のドラフトチャンバーに含まれます。サッシ開度によって風量を変動させるVAV(排気量可変)方式は、定量排気方式よりも、エネルギー効率に優れています。室内循環型のダクトレスヒュームフードは、屋外に空気を排出しないため、排気を補うための給気を行う必要がなく、最もエネルギー効率に優れています。その他のタイプとして、過塩素酸の取扱いに適した耐酸性材質で構成されているものなど、特定のアプリケーションに特化したタイプも存在します。当社のドラフトチャンバー(ヒュームフード)の紹介ページはこちら
安全キャビット
クラスI安全キャビネットは前面開口部があり、陰圧運転による作業者の保護のみを目的としています。最も一般的なタイプであるクラスII安全キャビネットは、タイプA、Bの2つに分類されます。クラスIIタイプAの安全キャビネットは室内に空気を再循環させます。ただし、アプリケーションに(臭気物質を扱うなど)に応じてキャノピー接続により屋外排気を行う場合もあります。クラスIIタイプA1とA2は類似していますが、最小平均流入風速の必要要件が異なります。タイプA安全キャビネットでは、放射性核種や危険な化学物質は使用できません。クラスIIタイプBは専用排気システムに接続されます。タイプBは、危険な化学物質(リスクアセスメントにもとづき、庫内で取扱う必要がある場合)の使用に適しています。タイプB1 は排気空気の一部を室内に再循環するのに対し、タイプB2は完全に屋外排気されます。当社の安全キャビネットクラスⅡの紹介ページはこちら据置タイプ "Tangerine" 卓上タイプ "Olive"クラスⅢ安全キャビネットは完全に密閉されたグローブボックスタイプです。
その他のタイプの換気装置
目的の操作に適した装置を慎重に選択する必要があります。適切な装置を使用することは作業員と実験室の安全にとって重要です。また、実験の成果にとっても重要となります。その他の装置としては、グローブボックス、クリーンベンチ、バランスエンクロージャーなどが挙げられます。ナノ粒子を使用するアプリケーションでは、特定の要求事項を満たすように設計された装置も存在します。当社製品の紹介ページはこちら
ドラフトチャンバーにおける廃棄風量の制御方式
ドラフトチャンバーにおける排気風量の制御方式には3つの種類があります。種類ごとにそれぞれ仕組みや特徴が変わるので、3つの制御方式について詳しく解説します。
制御方式1:一定風量タイプ(CAV方式)
まず「一定風量タイプ(CAV方式)」とは、常に排気量が一定であることが最大の特徴です。サッシが閉じている場合も開いている場合も、排気量は変わりません。そのためサッシが閉じている状態ではサッシ面が狭くなり、面速(風速)が上がります。反対にサッシを全開にすると面速が下がり、ゆるやかな排気となる仕組みです。 排気量が一定であるため、安定した換気が行われることがメリットです。しかし排気量の多さから、空調効率が低下し、屋内の快適性が損なわれる可能性があります。 また、電気代等のランニングコストが大きくなります。 以上のように、一定風量タイプのドラフトチャンバーは、常に排気量が一定である点が特徴です。
制御方式2:可変風量タイプ(VAV方式)
「可変風量タイプ(VAV方式)」は、サッシの開閉によって排気量が調整されます。サッシの開閉度に応じて連続的に排気量が変化する仕組みです。調整は自動で行われます。 そのため可変風量タイプでは、面速が一定になることが特徴と言えるでしょう。サッシが閉じていても開いていても、風速はほぼ同じです。空調効率が良く、複数台のドラフトチャンバーを稼働させる場合に適しています。必要に応じて風量が下がるため、大きな省エネ効果もあります。
制御方式3:低風量タイプ
「低風量タイプ」のドラフトチャンバーとは、排気風量が大幅に抑えられているタイプです。省エネ対策の一環として、近年になって広く採用されるようになってきました。低風量ながらも有害ガスを効果的に封じ込める仕組みが備わっており、一部の危険性の高い有害ガスを取り扱う場合を除いて選択肢の1つとして有力です。
制御方式4:ダクトレスタイプ
ダクトがなく、実験台のうえに設置されるのが「ダクトレスタイプ」です。有害物質はフィルターでろ過される仕組みとなっているため、屋外排気ではありません。室内排気であるため、空調効率を維持できる点がメリットといえます。また卓上と呼ばれるだけあり、コンパクトで場所を取りません。設置場所の移動が容易で、スペースをあまり取らずに導入できる点もメリットです。ただし、有害物質をフィルターでろ過する仕様上、大量の有害ガスが発生する作業には適していません。
ドラフトチャンバーの形状による分類
ドラフトチャンバーは、制御方式だけでなく形状によっても分類できます。続いてはドラフトチャンバーの形状による分類についてご紹介していきます。
分類1:床置きタイプ
「床置きタイプ」は、中段の作業面の部分で作業ができるタイプです。最も広く採用されているタイプで、装置の上部から排気を行います。床置きタイプは、薬品の調合作業や、小型~中型の機器を内部に設置する作業に適しています。
分類2:卓上タイプ
「卓上タイプ」は床置きタイプ同様に中段の作業面の部分で作業ができるタイプですが、下台がなく、作業面より上部の囲い部分のみで構成されています。そのため、既存の実験台や作業台に後付けで設置することが可能です。
分類3:ウォークインタイプ
「ウォークインタイプ」は作業台がないタイプのドラフトチャンバーです。床に設置するタイプで、内部の高さがあるため大型床置実験機材を用いる実験に使用できます。
ドラフトチャンバーとは作業者と室内循環の安全に特化した装置
この記事を通じて、ドラフトチャンバーについての理解が深まったのではないでしょうか。安全キャビネットと似ていますが、保護の対象や気流、アプリケーションの点で異なるのがドラフトチャンバーです。 オリエンタル技研ではグローバルな規格と基準をクリアした、高品質なドラフトチャンバーをご提供しています。作業者の安全をより確実に守るため、ぜひオリエンタル技研にご相談ください。