薬品管理制度 法規改正ポイント解説
研究活動を進めるうえでどうしても避けて通れない薬品管理。それを取り巻く法規制は非常に多岐に渡るとともに、年々その厳しさを増しています。
そこで本コラムでは、薬品管理にまつわる法規制をいくつかご紹介するとともに、大きな変化を迎えている薬品管理法規の要点を説明いたします。
1. 薬品管理にまつわる代表的な法規制
我が国の化学物質にまつわる法規制は「毒物及び劇物取締法」を皮切りに、今日まで多様な法規制が施行されてきました。その中で、代表的なものとしては以下のものが挙げられます。
- 労働安全衛生法(労働安全衛生法施行令、有機溶剤中毒予防規則(有機則)、特定化学物質障害予防規則(特化則)、女性労働基準規則(女性則))
- 化学物質審査規制法(化審法)
- 化学物質排出把握管理促進法(化管法)
- 毒物及び劇物取締法
- 消防法
その他にも代表的なものとしては、悪臭防止法、家庭用品規制法、オゾン層保護法、土壌汚染対策法、海洋汚染防止法、船舶安全法(危険物船舶運送及び貯蔵規則)、航空法(航空法施行規則)等がございます。
ここでは、その中でも特に一般的な5つの法規制の中身を簡単にご紹介いたします。
- 労働安全衛生法(安衛法)
指定された薬品に必要な設備や環境等が定められており、平成28年の改正で指定薬品のリスクアセスメントの義務化も盛り込まれています。
<関連コラム>有機溶剤中毒予防規則 徹底解説、特定化学物質障害予防規則 徹底解説
<参考>安全・衛生‐労働安全衛生法の概要(厚生労働省) - 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)
新規化学物質や評価の確定していない物質のリスク評価を事前審査し、その性状等に応じた製造、使用等について規制を行っています。
<参考>化審法とは(経済産業省) - 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化管法)
一定量以上の取り扱いがある場合に報告が義務付けられるPRTR制度と、安全データシート(SDS)の発行を義務付けるSDS制度の2つの制度から構成されています。
<参考>化学物質排出把握管理促進法(経済産業省) - 毒物及び劇物取締法(毒劇法)
鍵のかかった保管庫での保管、管理簿の作成と記録の保存(5年間)、譲渡時の身分確認などが義務付けられています。
<参考>毒物劇物の安全対策(厚生労働省 医薬・生活衛生局化学物質安全対策室) - 消防法
消防法上で定められた物質は、指定数量によって、政令で定める技術上の基準に従って管理を行うことが義務付けられています。スムーズで確実な保管量の把握が要求されます。
<参考>危険物保安室(総務省消防庁)
ここまで、薬品管理にまつわる代表的な法規制についてお話ししてきましたが、続いてはこのように様々な法規を遵守することを主軸にしてきた薬品管理制度の問題点についてご紹介いたします。
2. 従来の薬品管理制度の落とし穴
化学物質を原因とする休業4日以上の労働災害は年間450件程度で推移しており、そのうちの8割が特別規則の規制対象外の物質によるもの*という現状はご存じでしょうか?
このような事態の一番の原因とされているのが、化学物質を扱う我々の「規制対象外の物質=安全」という誤った認識です。危険性・有害性があるにも関わらず、規制されていないという状態が発生してしまう主な理由としては、
①国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類にのぼるという量の膨大さ
②それらに規制をかけるかどうかのプロセス(情報の収集から調査、専門家による検討など)にはどうしても時間がかかること
が挙げられます。
そこで、化学物質による労働災害・健康被害を減らすために近年強く求められているのが、リスクアセスメントを根底とした自律的管理制度の確立です。
ここでいう化学物質のリスクアセスメントでは、次のようなことが求められます。
- ラベル表示・安全データシート(SDS)をチェックし、危険性・有害性を認識すること
- その危険性・有害性に加え、使用頻度や危害発生の頻度、曝露の程度等から"リスクの程度"を総合的に判断すること
- それらに基づき、どのように扱うべきかを明確に定めること
こういった薬品管理に求められる姿勢の変化に伴い、法規制も現在進行形で柔軟にその姿・形を変えています。次の章では、法規制の「これから」についてご紹介いたします。
3. 法規改正で大きく変わる薬品管理体系 ~「法令遵守」から「自律的な管理」へ
化学物質を扱い、管理するうえで、従来のように「法令を守ってさえいれば安心」という誤った認識を正し、それに伴う労働災害を減らすため、近年であった大きな法改正としては、平成28年(2016年)に実施された安衛法における指定薬品のリスクアセスメントの義務化が挙げられます。そして更に、令和5年(2023年)4月1日からその対象物質が大幅に増加し、自律的管理に関わる様々なルールの追加も盛り込まれた「労働安全衛生法の新たな化学物質規制」が始まります。この法改正により、薬品管理のあり方は従来の「法令遵守」から「リスクアセスメントを軸とした自律的管理」へと大きく舵を切るのです。
本改正の主なポイントはこちらです。
◆本改正の主なポイント
- GHS基準の全ての薬品にリスクアセスメント義務化によって対象の化学物質も大幅に増加(674物質から2900物質へ)
■2900物質の候補リストはこちら(労働安全衛生総合研究所) - 曝露される濃度の低減措置の実施と3年間の記録の保存(がん原生物質は30年間の保存が義務付けられます)
- 特殊健康診断の記録を5年間保存
- 化学物質管理者および保護具着用管理者の選任義務化
- 自律管理の実施状況の記録作成・保存の義務付け(3年間)
※一部項目は令和6年(2024年)4月から施行される予定です。
参考:リーフレット「新たな化学物質規制が導入されます」(厚生労働省)
そして、更には現在薬品管理の中心的役割を担っている特化則、有機則に関しても、それらで規制されている物質(123物質)の管理は、今後5年後を目途に自律的な管理に移行できる環境を整えた上で、個別具体的な規制(特化則、有機則等)は廃止することが想定されています。
4. 自律的な薬品管理のために
このように薬品管理のあり方は現在一つの大きな節目を迎えており、法規改正により化学物質の取り扱いに起因する労働災害の減少が期待されます。
一方で、新たな管理制度への移行には様々な不安や困りごとがつきものでしょう。慣れない管理の手間が今まで以上に増えてしまい、本分であるはずの研究活動等に時間が割けないといった事態も起こることが予想されます。
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※本ページの内容は、2022年12月時点で公表されている法令等をもとに、作成しております。今後段階的に基準等が公表される場合もあるため、最新の法令等をご確認ください。理由の如何を問わず、閲覧者が法令等を誤認し生じた損害について、当社は一切責任を負わないものとします。