相手を察する力で信頼感を高め、ミッションを実現していく― スターバックスで働く人の共通点とは【後編】

パートナーズの皆さまと我々が共に研究環境の新しい未来を作っていくために共に学ぶ場として定期的に開催しているスキリングイベント「PARTNERs LEARNING」。
2024年12月11日、第10回目は「スターバックスコーヒージャパン元組織人材開発マネージャーに聞く!ひらめきが生まれるチームづくり」をテーマに、スターバックスコーヒージャパン元組織人材開発マネージャーの目黒勝道先生をお招きして、当社代表 林との対談でお話いただきました。
本コラムは、当日イベントに参加できなかった方や、参加後に改めて内容を整理したい方、また今回のテーマに少しでも興味を持っていただいた方を対象に、当日のリアルな対談内容をお届けします。
なぜスターバックス(以下、「スタバ」)スタッフはいつも笑顔で自ら行動するのか?なぜ現場からアイディアがでてくるのか?従業員のエンゲージメントを高める秘訣はどこにあるのか?スタバが実践する感動体験を生むホスピタリティや人材マネジメント、最強のチームを生み出すための仕組み、発想、カルチャーなど、様々なテーマに迫りました。
スタバの居心地の良さの秘密と徹底したフィードバック文化についてフォーカスした前編に続き、後編では、スタバが実践する「サーバントリーダーシップ」の考え方と参加者からの質問について、具体的なエピソードを交えながら深堀していきます。
愛をもってリードする「サーバントリーダーシップ」
林: なるほど。そうなると、マネージャーのコーチングスキルというか、サーバントリーダーシップ²という部分のトレーニングもあったりするのでしょうか。その部分について是非お伺いしたいです。
2・・・奉仕するタイプのリーダーシップ目黒先生:
具体的にこれというのはなかったですね。サーバントリーダーシップでいえば、最初から若い子に奉仕するつもりで導いていくという、そういう文化がすでに最初から根付いていたんだと思います。
スタバが店長に期待している職責みたいな言い方をすると、期待している要素100%に対して50%が目標数字に対する結果です。残りの50%は人材育成というようにウェイトを置いてやっていましたね。そのトータルで評価をしていきます。
結果だけを求める企業で何が起きるかっていうと、「自分だけ頑張ればいいチームプレーは必要ない。ルールを守ろうが守らなこうが、結果だけ出せばいいでしょう」ってなるんで、ギスギスした組織がどんどん出来上がっていきます。
林:それだとやっぱり良くないですよね。共に働く仲間をリスペクトしようとか共感しようとか、グリーンエプロンブックの考えは具体的にどのように浸透していったんでしょうか?
目黒先生:
1つ目は、どのポジションの人も同じ考え方を持って、同じ行動をしなきゃいけないということを、社長がいろんなシーンで言い続けているんです。会社の判断もこれに基づいてやりますということを見せていかなきゃいけないということですね。
2つ目は、グリーンエプロンブックカード³というのがありまして、賞賛し合い、認め合うっていうね。感謝の気持ちを伝えるということで、どんどんやりましょうと。それがすごく良かったんです。そこに書かれている大事なことを実践したら、それをちゃんと見て「あなたのあの部分が良かったです。ありがとうございます。」という気持ちを伝えていくと、もらった方は嬉しいですよね。この関係性ってすごく高まるわけですよ。信頼感が高まる。今度は受け取った方が、自分も他の人を見てあげようと、どんどん繋がっていくんです。
3つ目は、評価の項目に入っているということです。期待していることをちゃんとやってたかどうか見てあげないと、絵に描いた餅になるわけですよね。ミッションって大きいんですけど、自分なりにやってたかどうか自己評価を出してもらう。そのためにも、店長は店長なりに一人一人の行動を見て常にフィードバックをするんですよね。
林: なるほど。先ほどの「スタバらしさってなんだろう?」という枯渇している中で、グリーンエプロンブックのようなものがあって、自分たちなりの使い方をされて。自然発生的に、やっぱりその余白があったからこそ、自然と浸透したのかなという部分もあるんですかね。
目黒先生:
はい、そうですね。リーダーシップって聞くと、先頭に立って強くみんなを鼓舞しながら牽引していくというイメージを多くの人が持つと思うんですが、「私それ苦手なんです」って人が実は結構いるんですよ。
リーダーシップってそもそも何でしたっけっていう話をすると、リーダーシップっていうのは役職とかポジションとかそういう肩書には関係がなくて、チームの目標を達成するための肯定的な影響力を発揮する行動のことを指すわけです。そういうふうに置き換えると、先頭に立ってガーッてやるのがリーダーシップのスタイル一本ではないですよっていうのが見えてくるわけですよね。中には並走するときもあるし、中には後ろに立って、みんなを前面に出して活躍できるように後ろで支えていくみたいな。いろんなパターンがあっていいじゃないかと。そういうようなことをすると、伝える方も伝えやすいし、受けて実際やる方も「あ、先頭に立たなくてもいいんだな」ってなるわけですよね。そういうのを上手に使い分けるようなことも重要かなと思います。
林: 日本のリーダーシップっていうのはやっぱりまだ高度成長期の日本の成功体験を引きずっていて。いわゆるリーダー像っていうと強い戦国武将をイメージして、僕も大好きなんですけど。やっぱりサーバントリーダーシップは全くそれとは逆で、どっちかというと愛をもってリードするというか、子供や恋人に接するような道の生き方ですよね。

<ここからは、参加者からの質問を交えながら対談を続けます>
Q1.: グリーンエプロンブックには、具体的にどのようなことが書かれているのでしょうか?
目黒先生: まず最初にあるのは「存在理由」。その次には掲げられているミッションが6つ書いてあります。もう一つ、行動指針のキーワードが5つ書かれています。そのキーワードを実践するためのヒントのようなものが書かれているんです。こうしなさいじゃなくて、こうしましょうとか。例えば挨拶は目を見てちゃんとアイコンタクトしてやりましょうというのが羅列されているんですよ。
林: そんな具体的なことが書かれているんですか。
目黒先生: そうなんです。ただそれはやりなさいじゃないです。これをヒントに、どんどんお客さまとのつながりを深めていきましょう、またはパートナー同士の関係性を高めていこうというようなことですね。グリーンエプロンブックに連動しているグリーンエプロンブックカードの話に少し戻りますが、ここには5つの行動指針のキーワードがこじゃれたイラストと一緒にくっついていて、これが5つのカードになっているんです。裏にメッセージが書けるようになっていて、サンクスカードみたいにどんどん渡していく。
林:
会場の皆さん、どうですか?こういうことってやられてます?日本の企業ではなかなかやっ
ていないかと思いますが。
目黒先生:
そうですね。やるんですけど、長続きしないという会社さんが圧倒的に多くて。「どうやったらこれうまくやれるんですか?」って相談を受けるんですが、答えは一つだけです。やり続けることです。
書いても向こうから書いてこないから、効果がないんじゃないかって思うわけです。でもそうじゃなくて、気持ちはちゃんと届いてるんですよね。やろうと思っている人がやり続けることによって、そのリターンが隣の人も始まる。始まると加速するんですよ。それまでが大変なんですがね。
林: スタバさんって、今の離職率が4%と聞くんですけれども、やっぱりカードの話であったりとか、そういう小さい報酬というか、喜びや幸せというか、幸せの粒がたくさんあるっていうのがスタバの方たちのモチベーションに繋がっていると思うんですが、どうですか?
目黒先生: 私もそう思っています。やっぱりフィードバック文化の中で、自信に変えていくことの積み重ねなんですね。失敗しても「お前なにやってんだよ」と全否定されることはないので、自分で成長を感じるし、存在意義も感じられるようになるんです。
林:
なるほど。例えば、違う部署にいるとお互いの気持ちを察することってなかなか難しいと思うんですが、そのあたりはいかがですか?
目黒先生: スタバでは「内部チャレンジ」というものがありました。選抜して2年間別の部署で仕事をするんです。そこにはご本人のキャリアの幅を広げるという意味合いもあるんですが、もう一つはお店のことを知らない人たちに現場の人を入れていくんですよ。お互い苦労はあったと思いますが、これがあったからこそパートナーの気持ちというのが意外と浸透していったんじゃないかなと思っています。
Q2.: 行動強化や行動是正など、フィードバックの大事さを理解しました。その際に現場からアイデアやひらめきがあった場合に、全店舗で共有するような制度や仕組みはありましたか?
目黒先生: 僕がいた頃は大きい意味合いではなかったです。ただ、いろんなアイデアをどんどん出してください、出してもらったら結構ですっていう仕組みはあったので、自分の意見や思いは意外と話しやすいというか、出しやすい環境はあったんじゃないかなというふうには思います。
Q3.: 新人や入りたての人が打ち解けられるように注力すべきことはありますか?そういった制度などはございますか?
目黒先生:
僕がいた頃は大きい意味合いではなかったです。ただ、いろんなアイデアをどんどん出してください、出してもらったら結構ですっていう仕組みはあったので、自分の意見や思いは意外と話しやすいというか、出しやすい環境はあったんじゃないかなというふうには思います。
スタバにはいくつかポリシーがあったんですけど、スタースキルっていうキーワードがあって。大事なことが3つ書かれてるんですけど、これは関係性を作るポリシーなんだなって思ったんですね。
1つ目のスキルは「自信を保ちさらに高める」ってキーワード。これはさっきのフィードバックにつながるんですが、全否定しないってことです。2つのフィードバックを活用することによって、その人が自分の存在をちゃんと認識しながら周りの人に認めてもらいながら、自信を持って行動する。自信を持たないと人は第一歩を踏み出さないということですね。2つ目のスキルは「相手の話を真剣に聞き、理解する努力を怠らない」っていうポリシー。3つ目のスキルは何かというと「困った時には助けを求める」というポリシーがあります。声をかけられる先輩たちもそのポリシーを守るから、時間をみて必ず相談に乗ってくれる。新人や入りたての人にとっては安心感であったり、打ち解けるきっかけになると思いますよ。
<最後に>
林: 今日お話を伺う中で、「感動体験を生むんだ」とか「くつろいでもらってそこでいい時間を過ごしてもらいたい」とか、それは全然お金にならないことで、生産性が低いよねってなりがちなんですが、トップの方がそれを絶対に曲げずにやっている。これからの企業としては絶対に必要で、中心にするべき考えですね。
目黒先生: そうですね。生産性というキーワードはもうあまり出てこないし、求めてないんです。それをいった瞬間に人件費カットってなるんですよ。それでサービスが低下するのであれば、それはもう自販機でいいじゃんってなりますよね。
林:
本当にそうですよね。これからどんどん人口が減っていく中で、どうしたらいいもんだろうかと考えているんですけれども、今日お話をしていく中で「楽しく絵を描けばいいな」と思いましたね。本当に必要なエッセンスというのを今日教えていただいたような気がしていて、ホスピタリティ精神であったり愛であったり、察する力であったり。ちょっと前であればそんなの非効率だろうと言われたことが実は今の時代では効率性につながっていくんだっていうことを感じて、すごくいいなと思いました。
私はいろんな企業様の環境を作ったり、ひらめきの瞬間を作るんだっていうミッションを掲げて「環境づくり・文化づくり・人づくり」が大事だとこの3つを軸に今事業展開してるんですけども、スタバさんを本当にベンチマークしてたので、これからはどんどん具現化していこうと思いました。今日は本当にありがとうございました。
目黒先生: ありがとうございました。
本対談を通じて、スタバの文化がいかに緻密でありながらも、実際に機能する仕組みであるのかということが明らかになりました。これを各現場でどのように活用するか、今後の挑戦が期待されます。目黒先生、この度は貴重なお話をありがとうございました。
