【2023年4月施行】労働安全衛生法の新たな化学物質規制(要約版)
目次
2023年4月1日*から自律的管理に関わる様々なルールの追加も盛り込まれた「労働安全衛生法の新たな化学物質規制」が始まり、リスクアセスメント対象物質が大幅に増加します。この法改正により、化学物質管理のあり方は従来の「法令遵守」から「リスクアセスメントを軸とした自律的管理」へと大きく舵を切ることになります。本コラムでは、本改正のポイントをピックアップして解説したうえで、「自律的管理」をサポートする当社のソリューションをご紹介いたします。
※一部は2022年5月31日に施行されています。
より詳しく改正内容をお知りになりたい方向けに、詳細版コラムもご用意しております。ぜひご一読ください。
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◆改正の主なポイント
- GHS基準の全ての薬品のリスクアセスメント義務化によって対象の化学物質が大幅に増加(674物質から約2900物質へ)
■約2900物質の候補リストはこちら(労働安全衛生総合研究所) - リスクアセスメント対象物質にばく露される濃度の低減措置の実施と記録の保存が義務化
- 化学物質管理者および保護具着用管理者の選任が義務化
- 労働災害が発生した、またはその恐れのある事業場等に対しての労働基準監督署長による改善指示が可能に
- 作業環境測定の評価結果が第3管理区分に区分された事業場に対する措置が強化
※一部項目は令和6年(2024年)4月から施行される予定です。
参考:リーフレット「新たな化学物質規制が導入されます」(厚生労働省)
1. 改正の背景
化学物質を原因とする休業4日以上の労働災害は年間450件程度であり、そのうち8割が特別規則の規制対象外の物質によるもの*という現状はご存じでしょうか?
このような事態の一番の原因とされているのが、化学物質を扱う我々の「規制対象外の物質=安全」という誤った認識です。危険性・有害性があるにも関わらず、規制されていないという状態が発生してしまう主な理由としては、国内で輸入、製造、使用されている化学物質が数万種類と膨大な量にのぼることと、それらに規制をかけるかどうかのプロセス(情報の収集から調査、専門家による検討など)にはどうしても時間がかかることが挙げられます。
そこで、化学物質による労働災害・健康被害を減らすために近年強く求められているのが、リスクアセスメントを根底とした自律的管理制度の確立です。これまでの物質ごとにばく露防止の具体的措置を定めていく仕組み(法令準拠型)から、国が管理基準を定め、事業者はリスクアセスメントを行い、ばく露防止の措置を自ら実行していく仕組み(自律的管理)への見直しがなされることになりました。
2. リスクアセスメントとは
リスクアセスメントとは、化学物質や製剤の持つ危険性や有害性を特定し、それによる労働者への危険または健康障害を生じる恐れの程度を見積もり、リスクの低減対策を検討することを指します。
具体的には、以下の様な手順で進めます。
以下の情報を入手し、危険性または有害性を特定します。
- 安全データシート(SDS)、仕様書、機械・設備の情報
- 作業標準書、作業手順書
- 作業環境測定結果
- 災害事例、災害統計 等
リスクの見積もり方法には様々なものがありますが、化学物質の健康有害性についての簡易的なリスクアセスメント方法が「コントロール・バンディング」です。これは、ILO(国際労働機関)が、有害性のある化学物質から労働者の健康を保護するために、簡単で実用的なリスクアセスメント手法を取り入れて開発した化学物質の管理手法です。取り扱い物質の有害性情報、揮発性・飛散性、取扱量から簡単にリスクの見積もりが可能です。
見積もったリスクに対して低減措置の内容を検討し、実施します。代表的なリスク低減措置は以下の通りです。
- ①危険性・有害性の高い化学物質等の代替や化学反応プロセス等の運転条件の変更等
- ②工学的対策(局所排気装置の設置等)
- ③管理対策(作業手順の改善等)
- ④有効な保護具の使用
リスク低減措置の優先順位:①>②>③>④
リスクアセスメントの結果は下記のいずれかの方法により労働者へ通知することが義務付けられています。今回の改正により、周知だけでなく、新たに記録の作成・保存が義務化されます。
- リスクアセスメント対象物質を取り扱う作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付ける
- 書面を労働者に交付する
- 電子媒体に記録し、かつ、作業場に当該記録を常時確認できる機器(パソコン端末など)を設置する
3. 改正の主なポイント
3-1. リスクアセスメントの実施義務対象物質の大幅増加
- 「労働安全衛生法(安衛法)に基づくラベル表示、SDS等による通知」と「リスクアセスメント実施の義務」の対象となる物質に、国によるGHS分類で危険性・有害性が確認された全ての物質が順次追加され、改正前の674物質から2026年4月には約2900物質に増加します。
- 現在のラベル・SDS義務対象物質および今後の追加候補物質は、(独)労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所化学物質情報管理研究センターのウェブサイトにCAS登録番号付きで公開されています。
参考:令和6年4月1日に追加施行予定の234物質(基発0224第1号)
3-2. ばく露される濃度の低減措置の実施義務化
① 労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を、リスク低減措置により最小限度にしなければなりません。(2023.4.1施行)
リスク低減措置とは以下のようなものが挙げられます。
- 危険性・有害性の高い化学物質等の代替や化学反応プロセス等の運転条件の変更等
- 工学的対策(局所排気装置の設置等)
- 管理対策(作業手順の改善等)
- 有効な保護具の使用
② リスクアセスメント対象物のうち、厚生労働大臣が濃度基準値を設定した物質については、労働者がばく露される程度を濃度基準値以下としなければなりません。(2024.4.1施行)
濃度基準値が設定される物質は、毎年検討し、順次追加する予定となっています。
令和4年度検討分の対象物質・濃度基準値については、すでに令和5年4月27日に確定し、令和6年4月1日から施行されます。令和6年度から施行される濃度基準値設定物質には、アセトニトリルやアセトアルデヒド、アクロレイン、エチレングリコール、ニッケル、ピリジンなど、有機合成、分析化学、バイオ、農薬、電材等の各分野で使用される物質が含まれており、これらを使用している場合は、リスクアセスメントや確認測定を行い、ばく露濃度を評価する必要があります。
参考:令和6年4月1日に施行予定の濃度基準値とその対象物質(厚生労働省告示第177号)
また、令和5年度、令和6年度の検討物質も公開されており、候補物質としてギ酸、水酸化カルシウム、ジアセチル、エタノール、ホルムアミド等があり、ラボでよく見かける物質が含まれています。
令和6年度以降にも継続して検討がなされ、対象物質が追加される予定です。
(1)に基づく措置の内容と労働者のばく露の状況について、労働者の意見を聴く機会を設け、記録を作成について、
3年間保存しなければなりません。((1)①に関する部分は2023.4.1施行、(1)②に関する部分は2024.4.1施行)
ただし、がん原性のある物質として厚生労働大臣が定めるもの(がん原性物質)は30年間保存する必要があります。
(1)①のリスクアセスメント対象物以外の物質も、労働者がばく露される程度を、リスク低減措置により、最小限度にするように努めなければなりません。(2023.4.1施行)
3-3. 化学物質管理者および保護具着用管理者の選任義務化
化学物質管理者の選任の義務化(2024.4.1施行)
リスクアセスメント対象物を製造、取扱い、または譲渡提供をする事業場(業種・規模要件なし)で化学物質管理者の選任が義務化されます。
- 個別の作業現場毎ではなく、工場、店社、営業所等事業場ごとに化学物質管理者を選任します。
- 一般消費者の生活の用に供される製品のみを取り扱う事業場は、対象外です。
- 事業場の状況に応じ、複数名の選任も可能です。
化学物質の管理に関わる業務を適切に実施できる能力を有する者を選任する必要があります。具体的には、リスクアセスメント対象物の製造事業場では、専門的講習の修了者を選任する必要があります。リスクアセスメント対象物の製造事業場以外の事業場では、資格要件はありませんが、専門的講習の受講が推奨されています。
化学物質管理者の職務としては、以下のものが挙げられます。
- ラベル・SDS等の確認
- 化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理
- リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択、実施の管理
- 化学物質の自律的な管理に関わる各種記録の作成・保存
- 化学物質の自律的な管理に関わる労働者への周知、教育
- ラベル・SDSの作成(リスクアセスメント対象物の製造事業場の場合)
- リスクアセスメント対象物による労働災害が発生した場合の対応
保護具着用管理責任者の選任の義務化(2024.4.1施行)
リスクアセスメントに基づく措置として労働者に保護具を使用させる事業場で保護具着用管理責任者の選任が義務化されます。
化学物質の管理に関わる業務を適切に実施できる能力を有する者を選任する必要があります。
化学物質管理者の職務としては、有効な保護具の選択、労働者の使用状況の管理、その他保護具の管理に関わる業務が挙げられます。
3-4. 作業環境が悪い事業場に対する措置の強化
労働災害発生事業場等への労働基準監督署長による指示(2024.4.1施行)
労働災害の発生またはその恐れのある事業場について、労働基準監督署長が、その事業場で化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると判断した場合は、事業場の事業者に対し、改善を指示することができます。
改善の指示を受けた事業者は、労働衛生コンサルタントなどの化学物質管理専門家から、 リスクアセスメントの結果に基づき講じた措置の有効性の確認と望ましい改善措置に関する助言を受けた上で、1か月以内に改善計画を作成し、労働基準監督署長に報告し、必要な改善措置を実施しなければなりません。
労働災害の発生またはその恐れのある事業場に対する改善指示の流れ
第3管理区分事業場の措置強化(2024.4.1施行)
- 当該作業場所の作業環境の改善の可否と、改善できる場合の改善方策について、外部の作業環境管理専門家の意見を聴かなければなりません。
- 1. の結果、当該場所の作業環境の改善が可能な場合、 必要な改善措置を講じ、その効果を確認するための濃度測定を行い、結果を評価しなければなりません。
(1)1. で作業環境管理専門家が改善困難と判断した場合と(1)2. の測定評価の結果が第3管理区分に区分された場合、以下の措置の実施が義務付けられます。
- 個人サンプリング測定等による化学物質の濃度測定を行い、その結果に応じて労働者に有効な呼吸用保護具を使用させること。
- 呼吸用保護具が適切に装着されていることを確認すること。
- 保護具着用管理責任者を選任し、呼吸用保護具の管理、作業主任者等の職務に対する指導(いずれも呼吸用保護具に関する事項に限る)等を担当させること。
- 作業環境管理専門家の意見の概要と、講じた改善措置と評価の結果を労働者に周知すること。
- 上記措置を講じたときは、遅滞なくこの措置の内容を所轄労働基準監督署に届出を提出すること。
6か月以内ごとに1回、定期に、個人サンプリング測定等による化学物質の濃度測定を行い、その結果に応じて労働者に有効な呼吸用保護具を使用させること、および1年以内ごとに1回、定期に、呼吸用保護具が適切に装着されていることを確認することが求められます。
(2)と(3)で実施した個人サンプリング測定等による測定結果、測定結果の評価結果を保存しなければなりません(粉じんは7年間、クロム酸等は30年間)。また、(2)と(3)で実施した呼吸用保護具の装着確認結果も3年間保存しなければなりません。
3-5. 各規制の施行期日
規制項目 | 2022.5.31 (公布日) | 2023.4.1 | 2024.4.1 | |
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化学物質管理体系の見直し | ラベル表示・通知をしなければならない化学物質の追加 | ● | ||
ばく露を最小限度にすること (ばく露を濃度基準値以下にすること) |
● | ● | ||
ばく露低減措置等の意見聴取、記録作成・保存 | ● | |||
皮膚等障害化学物質への直接接触の防止 (健康障害を起こす恐れのある物質関係) |
● | ● | ||
衛生委員会付議事項の追加 | ● | |||
がん等の遅発性疾病の把握強化 | ● | |||
リスクアセスメント結果等に係る記録の作成保存 | ● | |||
化学物質労災発生事業場等への労働基準監督署長による指示 | ● | |||
リスクアセスメントに基づく健康診断の実施・記録作成等 | ● | |||
がん原生物質の作業記録の保存 | ● | |||
実施体制の確立 | 化学物質管理者・保護具着用責任者の選任義務化 | ● | ||
雇入れ時等教育の拡充 | ● | |||
職長等に対する安全衛生教育が必要となる業種の拡大 | ● | |||
情報伝達の強化 | SDS等による通知方法の柔軟化 | ● | ||
SDS等の「人体に及ぼす作用」の定期確認及び更新 | ● | |||
SDS等による通知事項の追加及び含有量表示の適正化 | ● | |||
事業場内別容器保管時の措置の強化 | ● | |||
注文者が必要な措置を講じなければならない設備の範囲の拡大 | ● | |||
管理水準良好事業場の特別規則等適用除外 | ● | |||
特殊健康診断の実施頻度の緩和 | ● | |||
第3管理区分事業場の措置強化 | ● |
※本ページの内容は、2023年11月15日時点で公表されている法令等をもとに、作成しております。今後段階的に基準等が公表される場合もあるため、最新の法令等をご確認ください。理由の如何を問わず、閲覧者が法令等を誤認し生じた損害について、当社は一切責任を負わないものとします。