安全管理者必見!「有機溶剤中毒予防規則」徹底解説
企業のコンプライアンス遵守の取り組みがますます求められるいま、様々な有害物質を多く取り扱うラボにおいては、コンプライアンスを遵守することが研究者の命を守ることにつながります。ほとんどのラボにおいて用いられる有害物質である有機溶剤。本コラムでは、有機溶剤の安全基準を定めた有機溶剤中毒予防規則(以下、「有機則」)を詳細に解説しています。ラボのコンプライアンスチェックにぜひご活用ください。
有機溶剤中毒予防規則(有機則)とは
有機則では、「どのような物質を使用するのか」、「どのような業務を行うのか」 、「どのような場所でその業務を行うのか」によって必要となる措置が定められています。 以下の表に使用する物質に応じた代表的な実施措置をまとめました。(有機則が適用除外される場合や業務内容によって求められる事項が異なる場合もあるため、ご注意ください)詳細は下記のメニューよりご確認ください。
使用物質 | 発散源対策 | 代表的な設備 | 健康安全対策 |
---|---|---|---|
第1種有機溶剤等 第2種有機溶剤等 (原則右のいずれかの 発散源対策が必要です) |
発散源の密閉 | グローブボックス |
作業環境測定の実施 健康診断の実施 危険性の周知 など |
局所排気装置 | ヒュームフード |
||
プッシュプル型換気装置 | 高封じ込めヒュームフード |
||
発散防止抑制措置 | ダクトレスヒュームフード |
||
第3種有機溶剤等 ※タンク等の内部での業務を除く |
発散源対策設置義務なし |
危険性の周知 など |
有機則が求める安全対策措置
ここでは、有機則を6つのカテゴリーに分け、各規定の内容を解説しています。
有機則は、「有機溶剤(等)」を用いて、 「有機溶剤業務」を 「屋内作業場等」において行う場合に適用されます。
有機溶剤(等)とは(第1条)
労働安全衛生法施行令別表第6の2に掲げる物質(=有機溶剤)と有機溶剤と有機溶剤以外のものとの混合物で、有機溶剤を当該混合物の重量の5%を超えて含有するもの(=有機溶剤等)と定義されています。
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有機溶剤業務とは(第1条)
以下の12業務が有機溶剤業務として規定されています。
- 有機溶剤等を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、攪拌、加熱又は容器若しくは設備への注入の業務
- 染料、医薬品、農薬、化学繊維、合成樹脂、有機顔料、油脂、香料、甘味料、火薬、写真薬品、ゴム若しくは可塑剤又はこれらのものの中間体を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、攪拌又は加熱の業務
- 有機溶剤含有物を用いて行う印刷の業務
- 有機溶剤含有物を用いて行う文字の書込み又は描画の業務
- 有機溶剤等を用いて行うつや出し、防水その他物の面の加工の業務
- 接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務
- 接着のために有機溶剤等を塗布された物の接着の業務
- 有機溶剤等を用いて行う洗浄(ヲに掲げる業務に該当する洗浄の業務を除く。)又は払しよくの業務
- 有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務(ヲに掲げる業務に該当する塗装の業務を除く。)
- 有機溶剤等が付着している物の乾燥の業務
- 有機溶剤等を用いて行う試験又は研究の業務
- 有機溶剤等を入れたことのあるタンク(有機溶剤の蒸気の発散するおそれがないものを除く。以下同じ。)の内部における業務
屋内作業場等とは(第1条)
以下の11の場所が屋内作業場等として規定されています。
- 船舶の内部
- 車両の内部
- タンクの内部
- ピットの内部
- 坑の内部
- ずい道の内部
- 暗きょ又はマンホールの内部
- 箱桁の内部
- ダクトの内部
- 水管の内部
- 屋内作業場及び前各号に掲げる場所のほか、通風が不十分な場所
以上のように有機則では対象作業がかなり広範囲に定められているため、ラボで行われる有機溶剤を用いた一般的な作業のほとんどが適用を受けると考えてもいいかもしれません。
「有機溶剤業務」のうち、イ、ロ、ヲ以外の業務において、①通風が十分な屋内作業場では1時間当たりの消費量、②タンク等の内部など通風が不十分な屋内作業場*では1日当たりの消費量が、下記の許容消費量(W)を超えないとき、適用除外を受けることができます。
*通風が不十分な屋内作業場とは、天井、床及び周壁の総面積に対する、直接外気に向かって開放されている窓その他の開口部の面積の比率(開口率)が3%以下の屋内作業場のことをいいます。
消費する有機溶剤の区分 | 有機溶剤等の許容消費量 |
---|---|
第1種有機溶剤等 | W=(1/15) x A |
第2種有機溶剤等 | W=(2/5) x A |
第3種有機溶剤等 | W=(3/2) x A |
A:作業場の気積(㎥(立方メートル))(床面から4mを超える高さにある空間を除く)ただし、気積が150㎥(立方メートル)を超える場合は、150㎥(立方メートル)とする。
「消費量」とは使用する量ではなく、蒸発する量のことをいいます。使用前と使用後の差分を消費量とするのが最もシンプルな算出方法です。適用除外には第2条で定めるものと第3条で定めるものの2種類あり、それぞれ適用除外の判断をするものと、除外される項目が異なるため、注意が必要です。
第2条における適用除外(第2条)
第2条における適用除外は、事業者が適用除外が該当するかどうか判断します。適用除外と判断した場合には、局所排気装置などの発散源対策の設置、有機溶剤作業主任者の選任、有機溶剤等の掲示及び表示などの実施が不要になります。しかし、健康診断や作業環境測定のように一定期間ごとに行うべき措置は実施しなければなりません。
第3条における適用除外(第3条)
第3条における適用除外は、所轄労働基準監督署長の判断に基づき行われます。事業者は規定の書類と作業場の見取図を添えて、所轄労働基準監督署長に提出します。認定された場合、事故の場合の退避等と有機溶剤等の貯蔵及び空容器の処理の規定以外は全面的に免除されます。
有機則が適用される作業である場合、労働者が有機溶剤の蒸気に曝露することを防ぐための設備の設置が義務付けられています。
第1種有機溶剤等又は第2種有機溶剤等(第5条)
第1種有機溶剤等又は第2種有機溶剤等に係る有機溶剤業務を行う作業場には、「有機溶剤の蒸気を発生源を密閉する設備」、「局所排気装置又はプッシュプル型換気装置」、「発散防止抑制措置」のいずれかを設けなければなりません。
- 有機溶剤の蒸気の発生源を密閉する設備(密閉設備)
この設備の構造等についての規定は定められておらず、有機溶剤の蒸気を作業場内に発散させない機能をもつものであればよいとされています。
- 局所排気装置又はプッシュプル型換気装置
局所排気装置とは有害物の発散源に近いところにフードを設けて、有害物を吸込み、ダクトを通して屋外に排気する装置をいいます。また、プッシュプル型換気装置とは、一様な捕捉気流を形成させ、吸込み側にー度に取り込んで排出する装置をいいます。局所排気装置の代表的なものとしてはヒュームフード、プッシュプル型換気装置の代表的なものとしては、サポート気流を生み出すサポートファンを備えた省エネ効果が高い高封じ込めヒュームフードがあります。この他にも、当社では作業内容に合わせたオーダーメイドのプッシュプル型換気装置の提案も行っております。ぜひお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせはこちら - 発散防止抑制措置
平成24年より設けられた特例許可申請制度。本制度のもとに所轄労働基準監督署長の許可を得ると、例外措置として、上記以外の設備で有機溶剤業務を行うことができるようになります。 発散防止抑制措置に該当する設備の代表例が、ダクトレスヒュームフードです。ダクトレスヒュームフードは活性炭フィルターによって、有機溶剤を吸着・除去し、クリーンなエアーを室内に循環させる装置です。従来の局所排気装置又はプッシュプル型換気装置と異なり、屋外に排気口を設ける必要がないため、ダクト工事が不要で設置してコンセントにつなげるだけで使用可能です。
発散防止抑制措置として所轄労働基準監督署長の許可を得るためには、作業環境測定を実施し、結果が第一管理区分であることなど様々な条件があります。 当社ではダクトレスヒュームフードを販売するだけでなく、導入前のコンサルティングから、作業環境測定・各種申請書類の作成まで、お客様の申請作業をトータルにサポートするサービスをご提案しています。 ぜひお気軽にお問い合わせください。
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設備の分類 | 密閉設備 | 局所排気装置 | プッシュプル型換気装置 | 発散防止抑制措置 |
---|---|---|---|---|
設備の例 | ||||
グローブボックス | ヒュームフード | 高封じ込めヒュームフード | ダクトレスヒュームフード | |
第1種有機溶剤等 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
第2種有機溶剤等 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
第3種有機溶剤等 | 不要* | 不要* | 不要* | 不要* |
第3種有機溶剤等(第6条)
通風が十分であれば局所排気装置等の設置は不要ですが、タンク等の内部や通風が不十分な屋内作業場で吹き付け作業を行う場合は密閉設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設けなければなりません。吹き付け以外の作業であれば、上記以外で全体換気を設けることでも対応可能です。 全体換気装置は下記表に定める換気量を有するものでなければなりません。(第17条)
消費する有機溶剤の区分 | 1分間当りの換気量 |
---|---|
第1種有機溶剤等 | Q=0.3W |
第2種有機溶剤等 | Q=0.04W |
第3種有機溶剤等 | Q=0.01W |
W:作業時間1時間に消費する有機溶剤等の量(g)
発散源対策設備の設置が不要なケース(第7,8,9,10,11,12,13条)
以下の場合発散源対策設備の設置が不要になります。
- 屋内作業場が周壁の2面以上、かつ周壁の面積の半分以上が外気に向かって開放されている場合
- 当該作業場に通風を阻害する壁、つい立その他の物がない場合
- 臨時に業務を行う屋内作業場(タンク等の内部を除く)
- 全体換気装置を設置して、臨時にタンク等の内部で有機溶剤業務を行う場合
- 短時間のタンク内業務に送気マスクを設置した場合
- 壁、床又は天井について行う作業において、有機溶剤蒸気の発散面が広いため、局排等の設置が困難な場合(通常出張して行われる塗装のような作業が該当する)
- 全体換気装置を設置された、反応槽その他の有機溶剤業務を行うための設備が常置されており、他の屋内作業場から隔離され、かつ、労働者が常時立ち入る必要がない屋内作業場において有機溶剤業務を行う場合
- 赤外線乾燥炉その他温熱を伴う設備を使用する有機溶剤業務を行う際、当該設備から作業場へ有機溶剤の蒸気が拡散しないように、発散する有機溶剤の蒸気を温熱により生じる上昇気流を利用して作業場外に排出する排気管等を設置する場合
- 有機溶剤等が入っている開放槽について、有機溶剤の蒸気が作業場へ拡散しないよう、有機溶剤等の表面を水等で覆い、又は槽の開口部に逆流凝縮機等を設けた場合
- 有機溶剤の蒸気の発散面が広く、設備の設置が困難であるため、発散源対策を設けないことを所轄労働基準監督署長が許可した場合
有機溶剤作業主任者の選定(第19条)
有機溶剤等を用いて行う試験又は研究の業務以外の有機溶剤業務を行う場合、有機溶剤作業主任者講習を修了した者から有機溶剤作業主任者を選任します。事業者は有機溶剤作業主任者に次の事項を行わせなければなりません。
- 作業の方法(局所排気装置や有機溶剤の運用手順など)を決定し、労働者を指揮
- 1月以内ごとに1回、局所排気装置等の点検(主要部分の損傷、脱落、腐食、異常音等の異常の有無、装置の効果の確認等)を実施
- 保護具の使用状況の監視
- タンク等の内部での作業に係る措置の監視
局所排気装置又はプッシュプル型換気装置の定期自主検査(第20,21,22,23条)
事業者は1年以内ごとに1回局所排気装置又はプッシュプル型換気装置の定期自主検査を行う必要があります。フードの制御風速測定、フード・ダクト・ファンの破損の確認や吸気及び排気の能力などの項目の検査を行います。自主検査であるため、資格者が実施する必要はありませんが、一定の知識を有した者が行うことが望ましいです。ORIENTALでは経験豊富なプロフェッショナルによる定期点検を含む保守契約サービスをご案内しております。
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実施した定期自主検査の記録は3年間保存しなければなりません。また、初めて装置を使用するとき、分解・改造・修理を行ったときにも同様の検査を行う必要があります。検査で異常が認められたときには、直ちに補修しなければなりません。
掲示と表示(第24,25条)
事業者は次の事項を労働者が容易に知ることができるよう、見やすい場所に掲示しなければなりません。
- 有機溶剤が人体に及ぼす作用
- 取扱い上の注意事項
- 中毒発生時の応急措置
- タンク等の内部での作業に係る措置の監視
掲示の内容及び方法は、「有機溶剤中毒予防規則の規定により掲示すべき事項の内容及び掲示方法を定める告示」(昭和47年労働省告示第123号)の規定によらなければなりません。
また、使用する有機溶剤等の区分の表示を見やすい場所に表示することも義務付けられています。色分けは第1種有機溶剤等は「赤」、第2種有機溶剤等は「黄」、第3種有機溶剤等は「青」と定められています。
タンク内作業(第26条)
事業者はタンク等の内部において有機溶剤業務に労働者を従事させるときは次の措置を講じなければなりません。
- 作業開始前に有機溶剤等が流入するおそれのない開口部をすべて開放
- 汚染した場合は直ちに身体を洗浄する
- 事故時に退避できる設備、器具等を整備しておく
- 有機溶剤等を入れたことのあるタンクについては、有機溶剤等を完全に除去するために定められた措置を作業開始前に行う
有機溶剤の貯蔵及び空容器の処理(第35,36条)
有機溶剤は、ふたまたは栓をした堅固な容器を用いて、関係者以外が立ち入ることができず、有機溶剤の蒸気を屋外に排出する設備を有する場所に保管しなければなりません。 ここでいう屋外に排出する設備とは、窓、排気管等を指し、必ずしも動力により排出する必要はありません。
有機溶剤の蒸気が発散するおそれのある空容器については、当該容器を密閉するかまたは、当該容器を屋外の一定の場所に集積しておかなければなりません。
作業環境測定の実施と評価(第28条)
第1種、第2種有機溶剤を使用する屋内作業場等では、作業場の有機溶剤濃度を測定する作業環境測定を6月以内ごとに1回実施する必要があります。測定は作業環境測定士が実施し、その報告書は3年間保存しなければなりません。作業環境測定の結果は下記の3つに区分されます。
当社では、作業環境測定士による作業環境測定の実施だけでなく、その評価結果に基づいた改善コンサルティングも行っています。
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健康診断の実施と報告(第29,30,31条)
第1種、第2種有機溶剤に係る有機溶剤業務もしくはタンク等の内部における第3種有機溶剤等に係る有機溶剤業務においては、当該業務に常時従事する労働者に対し、6月以内ごとに1回健康診断を行わなければなりません。その健康診断項目も有機則に定められています。また、健康診断結果は労働者に通知するととともに遅延なく所轄労働基準監督署長に報告する必要があります。
送気マスクの使用(第32条)
事業者は以下の作業に従事する労働者に送気マスクを着用させなければなりません。
- タンク等の内部における有機溶剤業務
- 局所排気装置等を設けずに行う短時間でのタンク等内部での業務
送気マスク又は有機ガス用防毒マスクの使用(第33条)
事業者は以下の業務に従事する労働者に送気マスク又は有害ガス用防毒マスクを着用させなければなりません。
- 全体換気装置を設けたタンク等の内部における有機溶剤業務
- 全体換気装置を設けたタンク等の内部における臨時の有機溶剤業務
- 全体換気装置を設けたタンク等の内部以外における短時間の吹き付け作業
- 局所排気装置等を設けることが困難な壁、床又は天井について行う有機溶剤業務
- 全体換気装置を設けた反応槽その他の有機溶剤業務を行うための設備が常置されており、他の屋内作業場から隔離され、かつ、労働者が常時立ち入る必要がない屋内作業場における有機溶剤業務
- プッシュプル型換気装置のブース内の気流を乱すおそれのあるものについて行う有機溶剤業務
- 有機溶剤の発散源を密閉する設備を開く業務
「送気マスク」とは給気式の呼吸用保護具のことを、「防毒マスク」とはろ過式の呼吸用保護具のことを指します。
※本ページの内容は、2021年9月時点で公表されている法令等をもとに、作成しております。今後段階的に基準等が公表される場合もあるため、最新の法令等をご確認ください。理由の如何を問わず、閲覧者が法令等を誤認し生じた損害について、当社は一切責任を負わないものとします。